花川防風林の住人(北海道石狩市) | 怖い話まとめ【日本全国47都道府県別】

花川防風林の住人(北海道石狩市)

石狩市花川には防風林が並ぶ場所がある。

時折、防風林の横を歩く人の姿は見られるが、管理する作業員以外はまず立ち入ることはないと思える。

この中の特定の場所で、不思議な体験をした人がいる。

その事例を紹介したい。

斎藤さんは防風林近くの住宅街に住んでいる。

既に定年退職し、悠々自適の生活を送っていた。

彼は健康のことを考え、日々の日課として散歩をしている。

毎日ルートを変えて歩くことで、会社勤めのときには味わえなかった人々の暮らしぶりに新鮮味を覚える。

ある日のこと、防風林の横を歩いていた。

(ガキの頃はこういうとこで遊んでいたよなぁ)

自然と防風林の中へ踏み込む。

その日は暑い日だったので、防風林の中の空気に涼を得た。

足元には多少の雑草が生えているが、歩くのに難儀する程ではない。

ちゃんと管理が行き届いている証拠だろう。

斎藤さんは木々の間を縫うように奥へと進んでいった。

森とは違い、防風林の場合、太陽の光を失うことはない。

多少の薄暗さはあるが、周囲の様子もよく確認できた。

二十分程の散策が続いた頃、目の前に小さな池を見つけた。

(防風林の中に池?)

そこだけぽっかりと穴が開いていて、見上げると空の青さが眩しく見えた。

通常、そのような状況に置かれているのならば、枯葉や泥で水は濁っているものである。

しかし、その池の水は澄んだ薄緑色をしていた。

透き通ってはいるが底が見えないことから、結構な深さがあるように思えた。

じーっと池の中に目を凝らす。

三センチ程度の一匹の小魚が泳いでいる姿が見えた。

(これは珍しい!)

近くに川や池がある訳ではない。

この魚はどうやってここに来たのだろう、と夢中になって目で追い続けていた。

──パチャン。

小さく水が撥ねる音がすると、小魚の数が二匹に増えていた。

まだ仲間がいたのか、と斎藤さんは喜んだ。

そして疑問に思う。

……今、水が撥ねたか?

小さな池であるから、覗き込んでいるときであればその瞬間が目に入るだろうし、水面に波紋も残るはずである。

しかし、そんなことは一切なかった。

──パチャン、ポチャン。

また水が撥ねる音がすると、小魚の数が増えた。

四匹は絡み合うように仲良く泳いでいる。

(うーん……)

斎藤さんは腕を組み、池を見下ろす形で立ち上がる。

魚は可愛いのだが、釈然としない思いのほうが強くなった。

その場で暫し考え込む。

──パチャン。

また水音がした。

しかし、水面は静まり返っている。

念の為にと中を覗くと、やはり魚は五匹に増えていた。

魚の数の変化は、池の奥底に隠れていたものが湖面近くに出てきたということで説明が付く。

ただ、水音の説明が付かない。

魚の数がタイミング良く増える理屈も納得がいかない。

ふーむ、と池を見ながら思い悩む。

──チャパン。

水音に伴い、水面が変化した。

池の端に波紋が起きている。

いや、波紋なんかはどうでもいい──。

池の端に水から上がろうとしている小人がいる。

五センチ程度の小人は、簡易なアイヌ装束を纏っていた。

陸に上がった小人は、テトテトと覚束ない足取りで防風林の奥へ進んでいく。

唖然とした斎藤さんはその姿が消えるまで、見送ることしかできなかった。

漸く我に返った頃、水中の魚が無性に気になった。

しゃがんで覗き込むが魚は一匹もおらず、深かったはずの池は底が見えていた。

次々と続く変化に、斎藤さんは驚きながらも期待をしてしまう。

その後、一時間以上も待ち続けたが、何の変化も起きないままであった。

(まあ、また来ればいい)

そう考え、その場を離れることにした。

場所を覚えておこうと、位置方向を確認しながら歩き始める。

池から五メートルも離れたとき、喪失感に似た感情を突然抱いた。

思わず振り返った先に、池の姿はなくなっていたという。

あれから何度もここを訪れているが、池を見つけ出すことはできない。

斎藤さんは、あれがコロポックルというものだと信じている。